[4.7] リリスの感謝祭
第1幕
第1場-フレイジャーのアパート
溶明。マーティンは自分の椅子に座っており、ナイルズは電話しており、ダフネはアイロンをかけている。
ナイルズ:もしもし? あ、バック? ドクター・クレインです。丸木小屋の準備ができたか聞こうと思って電話したんだ。モンラッシェのケースは届いた? よしよし。感謝祭の食事は3時きっかりに届く? よし。それから薪に蜘蛛がいないか徹底的に調べた? 素晴らしい! ありがとう。
電話を切る。
さて、大北西部で原始的生活を送る準備ができたよ!
シェリーを取りに行く。
ダフネ:聞いてもいいですか、甥っこさんを退屈させないものを何かお持ちになってますか?
ナイルズ:ああ、おじいちゃんを。ところで、リリスとフレデリックは明日何時に飛行機到着だっけ?
マーティン:リリスの箒なら11時に地上に着くぞ。
ロズとフレイジャーが廊下から出てくる。
フレイジャー:よーし、さて、植物に霧吹きするときは、水が冷たすぎないように確認して。くどいのはわかってるけど、君、繊細な花を扱うの、あんまり慣れてないと思ってさ。
ロズ:私、あなたの番組を3年間プロデュースしてきたんじゃない?
フレイジャー:ナイルズの丸木小屋の電話番号を置いていくよ、万一のときのためにね。あっそうだ、ところでお泊まりの客はご遠慮願いたいね。
ロズ:だとしたらそのやり方は間違ってるわよ。
ダフネ:私のサンフランシスコの電話番号も置いていきます。
ロズ:一緒に丸木小屋に行くんじゃないの?
フレイジャー:いやいや、ダフネは女装趣味のジャッキーおじさんと伝統的な感謝祭を送ることに決めたんだ。
ダフネ:来て、ロズ、キッチンを見せたげるから。
ロズ:じゃあ、そのおじさんって方はいつも女装してるの?
ダフネ:いいえ、仕事のときはしないことになってるの。教区の信者さんが我慢できないんですって。
二人はキッチンに入っていく。ナイルズはため息をつくが、半ばうめき声。
マーティン:どうした?
ナイルズ:いや、ちょっと落ち込んでるだけ。マリスのいない感謝祭は初めてなんでね。
マーティン:ああそうか、ナイルズ。つらいな。
ナイルズ:覚えてる? 彼女の前にかぼちゃパイの大きいひと切れをドサッと置いてさ、みんなで笑った年があったじゃない?
[皆クスクス笑う]でさ、その上にホイップクリームを山盛り一杯置いてまた笑ったよね!
[また笑う]そしたらマリスの目に涙が浮かんできたんで、みんなもうやめどきだってわかったんだ。
フレイジャー:そうだったな。
[Note: The following is seen in the U.K. DVD version, whereas it is dropped in the transcript.]
Martin: Well, if it makes feel any better, I won't be having my dream Thanksgiving either. Why does Lilith have to tag along anyway?
Frasier: She didn't wanna spend the holiday alone. Her husband is in New Zealand, exploring a volcano.
Martin: Why couldn't she go with him?
Niles: Because if she accidentally fell in, the shock wave from the hottest thing in nature meeting the coldest would actually crack the Earth in two.
Frasier: As if a smile from Maris couldn't freeze Mercury.
Martin: Guys, let it go. Nobody's gonna win this one.
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[訳注:次の部分はUK版DVDにはありますがスクリプトにはありません]
マーティン:気休めになるかどうか、わしだって理想の感謝祭が過ごせるわけでもないんだよ。リリスは一体何でくっついてくるんだ?
フレイジャー:彼女は一人で休日を過ごしたくなかったんだよ。ご亭主がニュージーランドに火山の調査に行ってるんだ。
マーティン:一緒に行きゃいいじゃないか?
ナイルズ:だってリリスが火山に落っこちちゃったらさ、世界で一番熱いものと冷たいものがぶつかって、衝撃波が起きて、それで地球が真っ二つになっちゃうからだよ。
フレイジャー:マリスの微笑みが水星を凍らせられないみたいに言ってるよ。
マーティン:やめとけやめとけ。そいつにゃ勝てん。
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電話が鳴る。フレイジャーが出る。
フレイジャー:もしもし? ああ、リリス。はい、リリス。はい、リリス。
マーティン:おや、奴らはまだ結婚してるみたいだな。
場面転換:キッチン。ダフネが酒の棚から瓶を取り出す。ロズがグラスを持つ。
ダフネ:ペーパータオルを交換するときは、フレイジャーさんは垂れが前にくるのが好きなの。トイレットペーパーを交換するときには、垂れが後ろに来るの。何でかは私に聞かないで。
ロズ:よくあんな人と一緒に住んでるわね。
ダフネ:あら、よくあんな人と一緒に働いてるわね。
ロズ:ま、私はコツを学んだの:彼が本当にうるさくなったらちょっと痩せてない?って尋ねるの。こっちが答えを聞く前に、彼はおやつの自動販売機のガラスに自分のお尻を映しに行くわよ。
ダフネ:[笑って]本当? 私は太ったって言うのよ。そしたら晩御飯を抜いて部屋ですねてるから、私は一晩自由の身ってわけ。
二人は笑ってグラスをカチンと合わせる。
場面転換:居間。
フレイジャー:じゃあフレデリックに僕から「ブラボー!」って言っといて。
[電話を切る]フレデリックがマーベリー学院の入試に合格したって!
ナイルズ:バンザーイ!
マーティン:そりゃ何だ? 何かの学校か?
フレイジャーとナイルズは笑い出す。
フレイジャー:「何かの学校」? もう父さん頼むよ。マーベリー学院はボストン中でいちばんハイレベルの私立校なんだよ。
ナイルズ:支配力と特権の養成校だよ。
フレイジャー:リリスと僕は校長の面接を受けなきゃいけなくなった。校長は予定がびっしりで、感謝祭の朝やっと会ってくれることになったんだ。そういうわけで、僕らの計画はもちろん変更だ。
マーティン:待てよ、孫に会えないって言うのか?
フレイジャー:もちろん会えるさ。僕らは感謝祭のお祝いの間ずっとボストンに移ることになる。航空会社に電話するよ。
ナイルズ:[携帯電話を取り出して]じゃあ、田舎風の感謝祭はキャンセルしたほうがいいね。
[電話に向かって]もしもし、バック? クレインです。枕からミントを取っちゃって。
溶暗
第2場-リリスの家のキッチン
溶明。リリスは夕食の準備をしている。
リリス:フレデリック、パパが着いたわよ。
フレディーは扉に走り寄って、「パパ!」と叫びながら外に出る。三人が上機嫌でフレディーに挨拶する。マーティンとナイルズがカバンを持って入ってくる。ナイルズはワインの瓶を持っている。
マーティン:やあ、リリス、元気にしてたか?
ナイルズ:感謝祭おめでとう、リリス。
リリス:マーティン、ナイルズ。
マーティン:いい所だな。フレディーくらいの年の子供らがたくさん表で遊んでるのに気づいたよ。
リリス:ええ、フレディーは彼らの遊び方を観察して窓辺で何時間も楽しく過ごしてます。ナイルズ、今回の面接、ちょっと私予定から遅れてるのよ。で、七面鳥の調理にあなたのご協力を仰ぎたいんだけど。
ナイルズ:わかったよ、七面鳥の料理はやったことないけど、レシピもここにあるね、何とか格闘してみるよ。どこまで行ったの?
リリス:もうすぐ解凍が終わるわ。
ナイルズ:[[訳注:からかいたい]欲求に逆らえず]で七面鳥は?
リリス:詰めものするのお願いしていい?
[訳注:stuff it=うるせえ黙れ]
フレイジャーが腕にぶら下がったフレディーと一緒に入ってくる。
フレイジャー:それでウサギさんはクマさんに言いました、「違う違う、僕は『エディプス』って言ったんだ、『食べられる
[訳注:エディブル]』って言ったんじゃないよ!』」
フレディー:うまい、パパ。
フレイジャー:やあ、リリス。
[頬にキス]
リリス:遅いわよ。
フレイジャー:まあまあ、君にも感謝祭おめでとう。さてフレデリック。
[彼を降ろす]ママとパパは面接に行かなきゃいけない、そしたら後はずっと一緒だ。それまで階に上がっておじいちゃんとナイルズおじちゃんに新品のコンピュータを見せてあげたらどうだい。
フレディー:わかった。
マーティン:おいで、坊や。
マーティン、ナイルズとフレディーは出ていく。
フレイジャー:どう、僕の半分でも緊張してる?
リリス:プラスちょっと。
フレイジャー:緊張を抑制しないとな。僕らがしっかりした責任感のある親に見えることが肝心要だ。リリス、安定剤、ピルと一緒にまだ持ってる?
リリス:ごめん、願書を取りに行っただけで最後の一つが必要になっちゃったの。
フレイジャー:安定剤のことを言ってるんだよね。
リリス:おそらく、面接以前に、あなたそのバターナイフみたいに切れ味の鋭いおちょくり、ナイフケースにしまっといた方がいいわよ。
フレイジャー:おそらく、君のパン
[訳注:bun? butt? ケツ]に1、2本切り目
[訳注:「ケツの切り目」で「むかつく奴」ほどの意]を入れる適当なキッチン用具が見つかると思うよ!
リリス:フレイジャー、もうやめ。フレデリックに集中しなきゃ。
フレイジャー:そりゃそうだ。僕らにはいつでも見解の相違があるけど、フレデリックの幸せのためには抑えるようにしてきたもんな。
リリス:それが彼の幸せを保証するために私たちがやってきた中で一番大事なことかもしれないわ。
フレイジャー:僕らの離婚を除けばね。
他の皆が戻ってくる。
マーティン:フレディーとわしは、わしが持ってきたこの新品のミットをならしてくるよ。
[彼はフレディーの髪をくしゃっとする]
リリス:[フレディーの髪をなでつけながら]あ、フレデリックはボール遊びはしません。ちょうど『ポカホンタス』を見て歴史上の誤りについての風刺的な作文を書くところだったんです。
フレイジャー:じゃ、僕らは行くよ。
ナイルズ:だめ、待って、サフランはどこ?
リリス:3番目の棚。
ナイルズ:わかった、エシャロットはどこ?
リリス:野菜室よ。ところでまだ中の内臓も取らなきゃいけないのよ。
ナイルズ:だとすると、10フィートの棒はどこ?
フレイジャー:よし、さあ、フレディー。ママとパパはお前がマーベリーの制服を着た姿を見るか、さもなければ討ち死にしてくるよ。
リリスとフレイジャーは出ていく。
ナイルズ:父さん、たぶん父さんが内臓を出さなきゃいけないよ。
マーティン:できないよ。フレディーとわしはキャッチボールに行くんだ。
フレディー:ママがボール遊びはできない子のためのものだって。
マーティン:そうか? よし、今はおじいちゃんが係だ。野球が好きになるよ、自転車に乗るのと同じくらい簡単だ。
フレディー:ママが自転車は…
マーティン:ああ、わかったわかった。
溶暗/場面転換:
「ドクター」と言うのはやめろ
第3場-ドクター・キャンベルの家
溶明。非常に凝った客間。玄関のベルが鳴る。ドクター・キャンベルが扉を開けるとリリスとフレイジャーが現われる。
リリス:ドクター・キャンベル。
キャンベル:ドクター・スターニン。
フレイジャー:ドクター・キャンベル。
キャンベル:ドクター・クレイン。どうぞお入り下さい。
リリス:素敵なお宅ですね。
フレイジャー:ほんとに、それに今日は私たちとお会い下さってありがとうございます。
キャンベル:よくいらっしゃいました。お楽になさって下さい、コーヒーを持ってきましょう。
キャンベルはキッチンへ。
リリス:ありがとうございます。
フレイジャー:わりとうまく行ってるじゃないか?
リリス:今のところ、すごくいいわね。
フレイジャー:ああ、ぜひともフレデリックをこの学校に入れたいね。
リリス:私すごく緊張してるわ、顔から血の気が引いちゃったみたいな感じ。私のお化粧どう?
[二人は座る]
フレイジャー:そうだな、ひとつまみやったらいいよ。
リリス:時間ある?
フレイジャー:違うよ、このつまみだよ。
[フレイジャーはリリスの頬をぎゅっとつねって色を与える。[訳注:つまみ=pinchとはマリファナのひとつまみだと思います]]
リリス:ありがとう。
フレイジャーが椅子から何かをむしり取ると、長い糸が手に現われる。
フレイジャー:あっ、まずい。どうしよう。
リリス:何? 何よ?
フレイジャー:いや、上着からちょっと糸が出てると思って引っ張ったらさ、このクッションの糸だったみたいなんだよ。わ、見て、小鳥のくちばしがなくなっちゃった!
リリス:引っ張るのやめなさいよ!
フレイジャー:爪切り貸して。
リリス:持ってないわ、噛み切りなさいよ。
フレイジャーは、ひざまずいてクッションに顔を近づけて糸を噛み切ろうとする。するとドクター・キャンベルがコーヒーを持って出てきたのであわてふためいて椅子に戻る。
キャンベル:クリームはお使いになりますか?
フレイジャー:は、はい、ありがとうございます。
キャンベル:[座って]さて、まずこの空き一席を埋めるお子さんは将来のご心配は無用と申し上げましょう。
リリス:一席? 一つだけですか?
キャンベル:そうです。卒業生のお子さんと何人かの寄贈者のお子さんがもちろん優先されますのでね。
フレイジャー:いや、仰せのとおりです。
リリス:もちろんです。
キャンベル:さて、お子さんのフレデリック君。彼の成績はもちろん優秀で他の名門校ならば間違いなく厚遇されるでしょう。
リリス:ええ。
フレイジャー:そうですね、言うまでもなく。
キャンベル:それでも我々は一段上と考えたい。うちの六年生の学芸会では最高の出来のキャスト・アルバムができましたよ。
リリス:フレデリックは絶対音感ですの。
フレイジャー:そうなんです、ピアノの調律のときによく役立ってます。
彼は弱々しく笑う。電話が鳴ったのでドクター・キャンベルは立ち上がる。
キャンベル:失礼。
[答えて]もしもし? ああ、ガイガー上院議員。お手紙でお知らせするとはっきりと申し上げたと思っておりましたが。えー、上院議員、議事堂の方では規則というものには何の意味もないのかも知れませんが、私にはいまだに意味があるのですよ。それが、ご子息のノア君には他で教育を受けていただく理由です。私の申し上げていること、柔軟でございましょう? ご関心をお寄せいただいたことマーベリーは感謝申し上げます。
電話を切る。フレイジャーは震えあがってカップをカタカタと鳴らす。
リリス:フレイジャー、コーヒー。
キャンベル:ああ、どうぞお気をつけて。ここの椅子は家族3代にわたるものなので。
溶暗/場面転換
第4場-リリスの家のキッチン
溶明。ナイルズは料理をしており、マーティンはフレディーの顔に氷嚢を当てている。
マーティン:よし、ちょっと見てみようか。
[片方の目の周りに大きな青あざ]うん、それほど悪くないな。
ナイルズは計量カップにワインを注いでから振り向く。
ナイルズ:うわ!
[次いで]いやほとんど気づかないくらいだよ。
[ワインを飲んでしまう]
フレディー:あっ、僕、
メディックアラートのブレスレットをなくしちゃった。
マーティン:そうか、たぶんキャッチボールをしてたときに落としたんだろう。
フレディー:僕見てくる。
[外に出ていく]
マーティン:わかった。わしはどうしてああなったかいまだにわからんよ。フレディーにまっすぐ放り投げてやったのに。
ナイルズ:いつになったら学習するの、父さん? クレイン家の男の子がキャッチするのがうまいのは、皮肉のニュアンスと、あとたまにウィルスなんだよ。
[何かを探して冷蔵庫を開く]リリスのお客さんでいる間はフレデリックに怪我させる可能性のある行為はすべて避ける約束にしよう。ところでパイクラストはどこだろう?
フレディー:[入ってくる]あったよ。
フレディーがキッチンに入りきったのと同時に、ナイルズはフリーザー側のドアをサッと引き開ける。ゴツンと音がして、ナイルズがドアを閉じるとフレディーが鼻を押さえてそこに立っている。
フレディー:血の味がする。
マーティン:今度はお前か!
ナイルズ:わあ、どうしよう、フレデリック、ごめん。
ナイルズはフレディーにハンカチを渡して鼻をつまむように言う。車が止まる音がする。
マーティン:あいつらだ! おい、フレディーや、二階で脱脂綿でも探してそいつを何とかしようぜ、な?
ナイルズ:父さん、待って待って、リリスに何て説明しよう?
マーティン:さあわからん。マリスに悪い知らせを言うときはどうしてた?
ナイルズ:普段はスリムファスト
[訳注:ダイエット飲料]に鎮静剤を入れてた。
マーティンとフレディーは出ていき、ナイルズは冷蔵庫をチェックしてから、素早くコンロの方に移ると、フレイジャーとリリスが入ってくる。
リリス:あなたがフレデリックの国民科学賞のことを言ったら彼の貴族風の眉がクイッと上がったのに気づいた?
フレイジャー:ああ。
ナイルズ:ドクター・キャンベルは好印象を持ったみたいだね。
リリス:最初は一瞬緊張したけど、後はバーンとうまくやったわよね。
ナイルズ:バーンとやったと言えば…
フレイジャー:ね、リリス、僕ら、一つだけ、もうちょっと違ったふうに答えた方がよかったなー、って思うことがあるんだ。
リリス:一つってどれ?
フレイジャー:フレデリックは他の学校だったら厚遇されるって校長が言ったときのこと覚えてる? 僕ら、マーベリーが断トツ1位の選択肢だってこと、はっきりと伝えられてなかったんじゃないかと思うんだ。
リリス:フレイジャー、あんまり細かく分析しすぎると、この瞬間の喜びが奪われてしまうわよ。結婚初夜をまた最初からやることになるわよ。
ナイルズ:説明しづらい打ち身傷って言えば…
フレイジャー:そうだね、君の言うとおりだ、もちろんね。すべてうまくいったのは確かだ。
リリス:でも私たちがマーベリーをどんなに尊重しているかを伝えきれなかった、なんてことがなければね。
フレイジャー:な、それが心配なんだよ。
リリス:訂正しなきゃ。
[受話器を上げる]何て言おう?
フレイジャー:リリス、やめろやめろ。上院議員が電話してきたときにあったことを思い出せよ。一計を案じる必要があるよ。
リリス:そうね。こんなのどう? 戻って、客間でイヤリングをなくしたって言うの。
フレイジャー:それで僕らが探してる間に、さりげなくマーベリーがフレデリックの第一、唯一の選択肢だって言おう。
リリス:完璧。
フレイジャー:行こう。
二人はあわてて出ていく。ナイルズはワインの計量カップを取り上げる。
ナイルズ:アホくさい思いつきと言えば…
飲み干す。
溶暗
第1幕了
第2幕
第1場-ドクター・キャンベルの家
溶明。フレイジャーとリリスは扉の外にいる。ベルを鳴らすとドクター・キャンベルがエプロン姿で応える。
フレイジャー:えー、ドクター・キャンベル、大事なところにお邪魔していないといいのですが。
キャンベル:いや実は、感謝祭のディナーの準備に追われてましてな。
リリス:今朝、イヤリングをなくしてしまったんです。
キャンベル:では、探して、見つかったらお電話しますよ。
フレイジャー:えーっとぉ、…
リリス:今ちょっと探させていただいてもよろしいでしょうか? こんなこと、お願いするつもりじゃなかったんですが、秘蔵のプレゼントで…ゴルダ・メイア
[訳注:1970年頃のイスラエルの女性首相]からもらったんです。
キャンベル:そうですか。
[二人は入る]
リリス:ありがとうございます。
キャンベル:すみません。私はかぼちゃスープの火を弱めなければならないので。
[キッチンに出ていく]
フレイジャー:リリス、ここで言う予定のこと、来るとき車で全部稽古したじゃないか。一体全体どこからゴルダ・メイアが出てきたんだ?
リリス:ま、「えーっとぉ」って言うのの半分もうまくなかったとは認めるわ。でもおかげで中に入れた。
キャンベル:[キッチンから]見つかりましたか?
フレイジャー:いえまだ。
ドクター・キャンベルがキッチンから出てくる。
リリス:本当にすみません。車に乗っている間、ずっと言ってたんです、「私たちにとって大切なただ一つの学校でどうしてこれが起こっちゃったのかしら?」って。
フレイジャー:ええ、ご承知のとおり、マーベリーが私たちの第一の選択肢なんで。
リリス:あら、見て、ここにあったわ。運が良かった。
キャンベル:まさにそうですな、その椅子はあなたが座っていたものではないことを思うとね。
リリス:えーっとぉ…
フレイジャー:さあ、おいとまするときですね。
キャンベル:知りたいんですが、私はずっとミセス・メイアの大の信奉者でしてね。どうやってお知り合いに?
リリス:あ、あの、それがおかしいんです。フレイジャー、あなたの方がずっとうまく話せるわよね。
フレイジャー:あっ、はいはいはい。大学時代、リリスはキブツで夏を過ごしましてね。で、メイアさんの、えー、孫息子のオスカーと付き合ってたんです。
キャンベル:オスカー・メイアですと
[訳注:オスカー・メイアはウィンナーで有名な米国の食品会社。イスラエル首相とは無関係]?
フレイジャー:ええ、彼がからかわれる
[訳注:taking the ribbing=バラ肉を取るとかけた駄洒落]なんてとこをちょっとご想像下さい。
キャンベル:[二人を扉まで送りながら]実に。お二人にまた会えてよかったです。よい感謝祭をお過ごし下さい。ご関心をお寄せいただいたことマーベリーは感謝申し上げます。
フレイジャー:ちょっとお待ち下さい。「ご関心をお寄せいただいたことマーベリーは感謝します」って、私たちにはその言葉の意味がわかってますよ。
キャンベル:そりゃよかった、では解釈のお手間が省けますね。
二人の眼前で扉をピシャリと閉じる。
溶暗/場面転換
第2場-リリスの家のキッチン
溶明。ナイルズは料理している。フレディーは鼻に脱脂綿を詰めて椅子に座っている。マーティンはハサミで髪を刈ってやっている。
ナイルズ:どうしてもフレディーにガムをやらずにいられなかったんだね? それもただのガムじゃなくて風船ガム。
マーティン:まあ、たぶん計算と違ったのは、ガムを噛んでいる間は口で息をしなきゃならんということだな。
ナイルズ:ねえ、フレデリック、僕が子供の頃、お母さんがレムラードソースを作ってスプーンで舐めさせてくれるときほど僕の顔に微笑みをもたらしてくれるものはなかったよ。
フレディー:ありがと、ナイルズおじさん。
ナイルズ:どういたしまして。
マーティン:たぶんこの子の前髪をもう少し切ってやった方がいいと思うだろ?
ナイルズ:たぶんフレディーの片目が無事なうちにハサミを置いた方がいいと思うよ。
フレディー:あれっ。このソース、アンチョビが入ってる?
ナイルズ:ああ。何てこった! ジンマシンがこんなに早く出てきたの見たことないよ!
[車が止まる]やつらが帰ってきたよ!
マーティン:フレディー、これのお薬何か持ってるか?
フレディー:僕は何の薬でも持ってるよ。
マーティンとナイルズがあわててフレディーを連れ出すと、フレイジャーとリリスが入ってくる。
リリス:よりにもよって一体全体何でオスカーなんて名前を選んだのよ?
フレイジャー:僕らをこの気違い沙汰に追いやったのは君だぞ。ゴルダ・メイア。ゴルダ・メチャクチャ!
リリス:その非難は的外れよ。マーベリーに入るのはいずれにせよ大博打だったのよ。校長の言ったこと聞いたでしょ。空席のほとんどは卒業生と気前のいい寄贈者の子供に行くって。
フレイジャー:ああ、ああ。ちょっと待て。何てこった、俺たち、バカじゃないか! 校長が何を言わんとしていたかわからないか? フレデリックを受け入れる方法を教えようとしてたんだよ。
リリス:寄付を釣り出そうとしてたって言うの? じゃあ彼は相応の負担を出すつもりがあるかどうか知ろうとしてただけだって思うのね。
フレイジャー:ほかに何がある?
フレディーが入ってくる。ジンマシンは今は大きくなって赤くなっている。
フレディー:やあ、パパ。
フレイジャー:ちょっと待ってて、フレデリック。何てこった、俺たちのすぐ前にあったものを逃したんだ、見もしなかった。
リリス:私たち、どうしてそこまで目が見えずにいられたのかしら?
フレイジャー:な、俺たち戻ってあいつが欲しがってるものを渡さなきゃ。
リリス:わかった、我が子の幸せへの道を何ものにも妨げさせてはならないわ。
フレディー:お母さん…
リリス:お母さんは急がなきゃいけないの、おチビちゃん。おじいちゃんと遊んでらっしゃい。
フレディーは当惑して居間を見る。
溶暗/場面転換
第3場-ドクター・キャンベルの家
溶明。キャンベルが扉の所に来て開ける。
キャンベル:ああ、ドクター・スターニンとドクター・クレイン。大歓迎ハグをしてさしあげられないことをお詫びしますが、ご覧のとおり、油で汚れたエプロンをしているものでね。何より、だんだんお二人を見るのがいやになってきました。
リリス:なおのこと短めに済ませます。
キャンベル:ええ、ハイレ・セラシエ
[訳注:エチオピア皇帝]にもらったカフスボタンを見つけたらすぐお帰りになるにちがいない。
リリス:今回は偽りの口実は設けません。有資格の志願者がそれほど多くて空席が一つしかないからには、ご判断はさぞかし難しいにちがいないことは承知しています。
フレイジャー:ええ、それに、感謝祭の休日の意図に沿って、あなたのピルグリムのテーブルに向かうインディアンのごとく、私たちはほんの少しの気持ちを持参しました、いわば、私たちの付き合いが花開く
[訳注:may flower=メイフラワー]ようにとの望みを持って。
[キャンベルに1通の封筒を渡す]
キャンベル:ご承知いただきたいが、22年間、私は賄賂を受け取ったことはありません。申し上げますが、これは極めて無礼なことです、
[小切手の額面を見る]考えられるいかなる面でも。それに、お気になさらなければ、お客様がこちらに向かっています。そして七面鳥はまだ全然焼けていなくて、腕利きの獣医なら命を救うことができるくらいなのです。
フレイジャー:しかし、ドクター・キャンベル…
キャンベル:次におっしゃろうとしていることが「この背広の胸ポケットに十分に焼けた七面鳥が入っています」という言葉でない限り、お話はこれまでにさせていただきたい。
彼は扉を閉める。リリスとフレイジャーは顔を見合わせて同じ計算をした様子で、急いで帰る。
溶暗/場面転換
第4場-リリスの家のキッチン
溶明。ナイルズがワインを飲みながら入ってきて、オーブンを開けて七面鳥に肉汁を回しかける。後ろからマーティンが急いで入ってきて、冷凍庫から氷嚢を取り出して急いで戻っていく。ナイルズはオーブンを閉じて、ワインの瓶を掴み、後に続く。
フレイジャーとリリスが急いでキッチンに入ってくる。フレイジャーはオーブン用鍋つかみを着けて、リリスがオーブンを開け、フレイジャーが七面鳥を取り出して出て行き、リリスが付け合わせの野菜を持って続く。
オーブンのタイマーがチンと鳴る。ナイルズがキッチンに入ってきてオーブンを開ける。鳥がいなくなっているのに気づいて、彼はオーブンを閉じ、上のオーブンもチェックして確認する。狐につままれた面持ちで、七面鳥がどこに行ったか見回す。
溶暗/場面転換
贈り物を持ったギーク[訳注:Greeks=ギリシャ人のもじり]には気をつけろ
第5場-ドクター・キャンベルの食堂
溶明。ドクター・キャンベルはテーブルの上座に立ち、両側には3人家族がそれぞれ座っている。
キャンベル:今夜は私たち皆にとって実に特別な祭日となりました。パメラ、シンシア、私はとりわけ感謝しております。見解の相違を水に流して、そしてご一緒できましたことを—この感謝祭の…トルテッリーニの席に。
パメラ:まあ、うちのウェズリーではなくそちらのレーガン君にマーベリーの入学を許可なさったことについては遺憾でしたけれども、最善の結果になりました。ウェズリーはバークレイ校で教育を受けることになりました。
キャンベル:それをお聞きして嬉しく思います。このような機会のために年代物のシャトー・ラフィットをワインセラーに準備しておりました。
ドクター・キャンベルは出ていく。一瞬、場は沈黙。
プレストン:結構ですね。
エリオット:ええ、実に。
玄関のベルが鳴る。全員が「私が出ます」と言う。シンシアがお役を勝ち取る。
シンシア:こんばんは。
リリス:こんばんは、ドクター・キャンベルはおいでですか?
シンシア:ええ、たった今ワインを取りにセラーに行かれたところです。
フレイジャー:お邪魔するつもりではないんですが、ドクターが七面鳥に難儀しておられるとお聞きしたので、こちらをお持ちしようと思いまして。
シンシア:まあ、何てお心の広い。どうぞお入りになって。みなさんご覧下さい、コリンのお友達の方が七面鳥をお持ち下さいました。
フレイジャー:いや「お友達」というのはたぶんちょっと言い過ぎかと思いますが。
リリス:実は私たちの息子がマーベリーの候補生だったので、私たち彼を入れてもらおうと必死で、ちょっと強めに出ましたの。
フレイジャー:そういうことです、みなさんご自身も親御さんとして必ずおわかり頂けると思います、息子のために最善のことだけを願うのはごく自然なことです。
シンシア:ええ、全くそうですわ。
パメラ:他にもいい学校はありますよ。バークレイもいいですよ。
フレイジャー:ええ、そうですね、私たちを元気づけようとしてくださってありがとうございます、ただ、フィレミニョンを求めているときに、肩ロースのひき肉を食べる気はしませんよね。
シンシア:まあまあ、バークレイはとっても魅力的な、ちょっとした学校ですよ。
パメラ:「ちょっとした学校」?
シンシア:あら、そんなにピリピリしないで。
パメラ:この慇懃無礼女。
シンシア:このやきもち女。
エリオット:うちの妻にそんな口きくな!
プレストン:だまれ、エリオット!
皆言い合いを始める。ドクター・キャンベルがワインを持って入ってくる。
キャンベル:静かに!
フレイジャー:私たち、七面鳥を持参しました。
キャンベル:どうしてこんなことになったか存じませんが、あなた方二人のせいでこうなったことだけは確信できます。
リリス:実際は…
キャンベル:あなた方を二度と目にしないでいられれば、私は幸福な人間としての一生を終えられます。
[二人は嘆く]残念ながら、それを保証する方法は思いつく限り一つしかない。息子さんのフレデリックは、マーベリー校入学をここに許可します。
フレイジャー:[二人は有頂天になる]何と!
キャンベル:[手を上げて]ただし!—お二人のいずれかが次の条件に一つでも違反したら直ちに放校です—フレデリックを学校に送ってきてはいけません、迎えにきてもいけません、発表会、お芝居、運動会、あるいは学校の各行事、それから万一そんなものができたとして「フレデリック・クレインの日」であっても、それを含めて、一切参加はなりません。
[二人を扉の所まで送る]それから卒業になったら、しかるべき代理人をよこしなさい、ビデオ・カメラを持たせてね。さて大変うれしいことに、これであなた方とはお別れです—永遠に!
フレイジャー:私がやりましょう。
フレイジャーは自分とリリスの前で扉をピシャリと閉める。ポーチに切り替わり、リリスとフレイジャーは得意げに互いを見る。
二人:やった!
溶暗
第2幕了
エンドロール
ドクター・キャンベルは食卓に座っている。椅子は散乱していて、何脚かは引っくり返されている。彼はワインの瓶を空にする。立ち上がって、フレイジャーが座っていた椅子から模様が欠けているのに気づく。彼は激怒した表情。